近年、日本人の海外旅行需要が減少傾向にあることがさまざまな統計データや業界関係者の声から明らかになってきています。
かつては“パスポートを持って世界へ”が当たり前のように語られていた時代もありましたが、2020年以降は特にその動きにブレーキがかかっています。
この記事では、パスポート保有率の現状から、旅行先の選択傾向、さらには海外旅行離れの背景にある要因について、データとともに徹底的に解説していきます。
パスポート保有率はわずか17%に“外務省データが示す海外旅行離れ”

外務省が発表した統計によると、令和6年(2024年)時点の日本国内におけるパスポート(一般旅券)発行数は約370万冊にとどまりました。これは令和元年(2019年)から約66万冊の減少となっており、日本人のパスポート保有率はわずか17%程度という水準にまで落ち込んでいます。
この数字は、先進国の中でも際立って低い水準であり、アメリカ(約48%)、韓国(約60%)、シンガポール(約80%)と比較しても、日本人の「海外志向の低さ」が浮き彫りになります。
パスポート保有率が低い背景

日本人がパスポートを保有しない理由として考えられる理由を考えてみました。
・国内旅行で満足できる環境
観光地や交通インフラが整った日本では、国内旅行で十分満足できる人が多く、海外に目を向ける必要性を感じない層も多いのが現実です。
・円安・物価高によるコスト増
旅行代金の高騰に加え、円安が進行しているため、同じ金額でも国内旅行の方が割安感があるという印象が強まっています。
・高齢化の影響
海外を旅行をしない高齢者層が全体の保有率を引き下げており、高齢化が続く限り今後もこの傾向は続く可能性があります。
・パンデミックの影響が長引いている
コロナ禍での海外渡航制限・中止がトラウマ的に残っており、再びパスポートを取得して海外に出かけようとする人が限定的になっています。
旅行スタイルの変化とコロナ後の影響

新型コロナウイルスの世界的流行(2020年~)により、海外旅行のハードルは一気に上がりました。たとえ渡航制限が解除されても、心理的な抵抗感や手続きの煩雑さ(ワクチン証明・電子認証など)が残っています。
日本ではコロナ前に比べて“海外旅行離れ”の傾向が顕著です。これは「国内旅行志向の強まり」「物価上昇」「賃金停滞」など、複合的な社会背景が影響しています。
減少する日本人旅行者|人気渡航先はアジア圏が中心に
日本人の海外渡航先の傾向を見てみると、近距離アジア圏が中心となっています。
人気の旅行先ランキング(近年の傾向)
- 韓国:安価で気軽に行ける点が魅力。若者を中心に人気。
- 台湾・香港:食や文化、治安の良さが評価されている。
- タイ・ベトナム:コスパの良さと観光資源の豊富さで根強い人気。
一方で、欧米諸国(ハワイ・アメリカ本土・ヨーロッパ)は渡航費用が高く、若年層の海外旅行先からは外れがちになってきています。
海外旅行離れの今後と対策

日本人の海外旅行需要は、今後もゆるやかな回復を見せるとはいえ、コロナ前の水準まで戻るには時間がかかると予想されます。
今後の回復に必要な要素:
- 為替(円安)の是正
- 安心して渡航できる国の増加
- 渡航手続きの簡素化(例:K-ETAや電子ビザの導入・改善)
- 若年層向けプロモーションや留学・ワーキングホリデー支援の拡充
日本人の海外旅行は「選ばれし層のレジャー」に?
今後、日本人の海外旅行は「趣味や嗜好が明確な一部の層」による“選択的レジャー”になる可能性があります。
パスポート保有率の低さや旅行コストの上昇から、万人が気軽に楽しむレジャーとしての海外旅行は、やや遠のいているのが現状です。
その一方で、情報感度の高い層や体験を重視する層は引き続き海外へと目を向けており、こうした層に向けたサービスの最適化が業界の鍵となるでしょう。
若年層の海外旅行は「体験重視」
近年、20代〜30代の若年層を中心に海外旅行のスタイルが大きく変化しています。かつての“定番ツアー型”の旅行ではなく、個人手配やSNS主導型の自由な旅が主流になりつつあります。
その背景には、LCC(格安航空会社)の普及によって費用面のハードルが下がったことや、SNSによる情報収集のしやすさ、そして「写真映え」を重視する価値観の浸透が挙げられます。
「SNS映え」する観光地を重視

InstagramやTikTokといったSNSの普及により、旅行先の選定基準が“映えるかどうか”にシフトしています。
美しいビーチやカラフルな街並み、ユニークなカフェやホテルなど、SNSで注目されるスポットを目指して旅行先を決める若者が増加中です。
特に以下のようなスポットが人気です。
- ピンク色の壁やネオンが特徴の韓国・ソウルのカフェ街
- モルディブ顔負けのビーチがあるタイ・クラビ
- フォトジェニックなナイトマーケットが点在する台湾・台北
「体験型コンテンツ」が旅行の目的に

若年層の海外旅行では、「その場所でしかできない体験」への関心が高まっています。ショッピングや観光だけでなく、次のようなアクティビティが旅行の中心になるケースも増えています:
- 現地の料理教室やローカルフードツアー
- サーフィン、ダイビング、トレッキングなどアウトドア体験
- 伝統衣装の着用&写真撮影体験(韓国のチマチョゴリ、ベトナムのアオザイなど)
短期&近場志向

忙しい学生や社会人にとって、長期休暇を取っての遠方旅行はハードルが高いため、週末や連休を活用した「短期&近距離の海外旅行」が主流となっています。
人気の近場旅行先は以下のような近場になっています。
- 韓国(ソウル、釜山)
- 台湾(台北、高雄)
- タイ(バンコク、チェンマイ)
- ベトナム(ホーチミン、ダナン)
いずれも日本から飛行機で4〜6時間以内で到着し、費用もリーズナブル。さらに観光・食・SNS映えの三拍子が揃っていることが支持される理由です。
旅行スタイルは「個人手配+SNSリサーチ」が主流

従来のパッケージツアーよりも、若年層は航空券・ホテルを個別に予約し、旅程はSNSやYouTubeで調べながら柔軟に組み立てるスタイルを好む傾向があります。
旅行情報の主な収集源:
- Instagramのハッシュタグ検索(#韓国旅行、#台北カフェ など)
- TikTokでの現地体験動画
- YouTubeのVlog系チャンネル
- ブログ・レビュー投稿サイト(Google MapsやTripadvisorなど)
このように、若年層の海外旅行は「価格」や「観光名所」だけでなく、「どれだけSNSに載せたくなるか」「自分だけの体験ができるか」が大きな軸となってきています。