2025年5月末、カンボジアとタイの係争地で小規模な銃撃戦が発生し、カンボジア兵1人が命を落としました。この地域は歴史的に領有権を巡る緊張が続いており、過去にも何度か小規模な侵入や衝突が繰り返されています。
ただし、今回の事件はあくまで限定的なものであり、空爆を伴うような全面的な軍事衝突に発展する恐れは現時点では低いとされていますが陸路国境は不安定です。
不安定なタイ・カンボジア国境

この地域での事件は地域の政治情勢に大きな影響を及ぼしました。6月18日には、タイのペートンタン首相がカンボジアのフン・セン前首相と電話協議を行っていた際の音声が流出しました。
この音声の中で、ペートンタン首相が自国軍を激しく批判している様子が明らかとなり、タイ政権は危機的な状況に陥りました。多くの専門家やメディアは「首相辞任は避けられない」との見方を強めましたが、ペートンタン首相は辞任を否定し、政権の続投を表明しています。
現在のところ、タイ軍の主流派は首相の継続を支持しており、王室も即時の政権交代を求めていないとの観測が広がっています。
当面は現政権が維持される可能性が高いと見られています。なお、この流出音声はカンボジアのフン・セン氏が意図的に公開したとされ、首相交代を急ぐとフン・セン氏の思惑に乗ってしまうとの狙いがあったとも推測されています。
なぜタイの内政はこれほど混乱しているのか?

タイは近年、軍事クーデターや政治抗争が頻発しており、政権の安定性が大きく揺らいでいます。今回の銃撃戦と音声流出事件は、単なる軍事的衝突以上に、タイ国内の政治的な対立と不安定さを象徴しています。
・軍と民間政権の対立
タイでは長年にわたり軍部が政治に強い影響力を持ち、民間政府との対立が続いています。ペートンタン首相は軍部からの圧力を受けつつも政権維持を試みている状況です。
・王室の影響力
タイの王室は政治的安定を望んでおり、急激な政変を避ける意向が強いです。このため、王室の動向が政局の行方を左右しています。
・外部との関係悪化
カンボジアとの国境紛争は、両国のナショナリズムを刺激し、国内の政治勢力がこれを利用する形で緊張を高めています。特にカンボジア側の動きに対して、タイ軍内部の不満が首相批判へとつながったと見られています。
・政権基盤の弱さ
ペートンタン首相は支持基盤が脆弱で、複数の政治派閥や軍内部の対立が政権運営を困難にしています。これが不安定要因となり、音声流出事件のような政治的揺さぶりも起きやすい環境です。
カンボジア・タイ国境の緊張とポイペト国境閉鎖問題—影響と現状
6月8日には両軍が2024年に合意した境界線までそれぞれ撤退することで合意に至り、一旦は緊張緩和の兆しが見られましたが、タイ政府は国境の一部地域において厳しい措置を実施しました。
特に、タイ サケーオ県のアランヤプラテートとカンボジア バンテアイメンチェイ州のポイペトにある国境検問所が閉鎖され、他の検問所も営業時間を大幅に短縮しました。
この予告なしの国境閉鎖により、多くの観光客や物流に大きな混乱が生じています。報道によれば、数千人以上がポイペトで足止めを余儀なくされた状況です。
この国境閉鎖は、両国間の貿易や人の往来に深刻な影響を及ぼしており、特に観光業に依存する地域経済にとっては打撃となっています。国境付近を訪れる旅行者は、最新の国境情報や通行状況を事前に確認することが強く推奨されます。
今後の見通し
タイ政局の不透明感は続きそうですが、軍の主流派や王室の支持がある限り、急激な政変は避けられる可能性が高いと見られています。
両国間の係争地情勢も、現状は小規模な衝突にとどまっており、大規模な戦闘や空爆の発生は今のところ想定されていません。
緊張状態は続いており、地域の安定には両国の外交的な対話と内政の安定化が不可欠です。今後の動向については、国内外の情勢を注視し続ける必要があります。